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「ゆず おっちゃんこ」 孫娘の原画を立体に
 孫娘が描いた飼い猫「ゆず」は、よく特徴をとらえていて、とても可愛い出来栄え。この原画をそのまま下絵にして、木彫で再現できないかトライしてみた。“ふっくら感”を出そうと凹凸の境目は緩いカーブになるよう工夫したつもりだが、原画にある“ほのぼの感”までは表現しきれなかった。やはり一番可愛がっている者の目にはかなわないということか。背面は絵がなかったので、私流にややラフな色付け。
 「おっちゃんこ」は北海道弁で「お座り」の幼児語。子猫にぴったりと思ってタイトルにした。「小さい」ことを「ちゃんこい」というのと関連するのかも。(2023/12/1)

     



「肥り過ぎだニャ…」 デブトラに彩色
 キャットドアに腹がつかえて抜けられず、もがいているデブ猫……TV番組の犬や猫の笑いを誘う動画特集でときどき見るシーン。本人(本猫?)をトラ柄に塗ったが、どうも表情がイマイチ。動画なら、このとぼけ顔でも動きで表現されるが、木彫はいわば静止画、切実さが伝わってこない。反省していたら、不意に“放蕩息子の帰還”という言葉が浮かんだ。サカリがついてほっつき歩き、痩せてよれよれで帰ってきた奴のほうが笑えたな! この頃、どうもアイデアが最初に決まらない、後から思いつく。2023/5/5





「猫川柳レリーフ」 二転三転の末
 自作の川柳を活かしたレリーフを彫ってみよう、と思い立ったのは昨年の夏、酷暑のさなかだった。句は、猫の習性をとらえ微笑みを誘う、我ながらいい出来に思え、絵は付け足しだからとラフなまま彫り始めた。しかし彫りながら、こんな単純な葉っぱの木があるわけないな、と気づき、彫り上げた後もやはり気に要らず、1枚1枚彫り直すことにした。ここから作業は二転三転し始める。葉の繁り、木陰の猫、地面の影と、陰影のバランスが複雑になった。とくに猫の毛色が微妙だ。

 アクリル絵の具を白+微少の黒で薄いネズに調合すると、なぜか青みを帯びて、日陰の白猫にしたいのに日向のロシアンブルーに見えてしまう。顔彩、墨汁、遅乾剤のメディウムまで加えて何度か試みたが、色むらが出てドブから上がった猫のようになり、どうも思い描くイメージと違う。手がなくなって放って置いたのだが、過日、東急ハンズで“ニュートラル・グレー8”なる色を見つけ、これをベタ塗りして収めることにした。まだ完全に納得したわけではないけれども……。2023/8/15
    



「招き子猫」小さなオテテに大きな願い
 猫ネタのアイデアがしだいに枯渇してきた。で、なんとなくGoogleの画像検索をしていたら、かわいい「招き猫」の絵を見つけた。発信元は無料イラスト素材集のイラサポfree、自由に使っていいということなのでありがたく拝借し、少しアレンジして彫り、彩色した。
 上がる一方の物価、上がらない給料や年金……。この“招き子猫”の小さなオテテ(前足というべきか)は庶民の願いだ。来年はなんとか金運を呼び寄せてもらいたい。2022/12/18

    



「怪しい奴 II」 曖昧なまま進めた結果
 子猫が何者かを相手に、倒れながらも対決しようとしている体勢を彫るつもりだった。ところが片方の足裏を地に着けた捻った形が想像できず、曖昧な下絵のまま彫り進めた結果、不自然な体勢になり、やむなく四肢とも上にあげた “びっくり仰天” の形に修正せざるを得なくなった。これでは負けの体勢、子猫の健気な反撃の意思を表現できない。
 で、飼い主がジャラケさせている愛玩シーンに切り換え、自分の手を参考にして彫ったら、今度はゴツすぎて子猫を圧倒する感じになった。しとやかな女性の手にしたほうが、マニキュアや指輪なんかも細工できて、面白かったのでないか。どうもアイデアがあとから出てくる、老いのせいか。2022/8/15
    



模刻「牝猫」 小顔に修正
 近代木彫の鬼才と称される佐藤朝山の「牝猫」を、未熟を顧みず模刻したのは12年前のこと。しなやかで凛とした美しい造形に魅せられたからだった。実物を見たことはなく、ネットで見つけた側面の写真(左上)1枚だけしかなかったので、見えない部分は成り行き任せに彫った。その後、求龍堂の新刊で、この猫の正面の顔を発見(左下)! それは私の想定をこえて目も耳も大きいもので、さっそく手直ししたのだったが……。本棚に置いて日常的に目にしていると、どこかスマートさに欠ける感じがしてきた。

 TV番組の絵画教室で、講師が、初心者は顔や手先足先を実際よりも大きく描いてしまいがちだ、と言っていた。そうか、この違和感は顔が大きいせいだ、と気づいた。そこで本に書いてある実寸の高さ37.5p、私の模刻21pから比率を割り出して鼻先を4oほど落とし、合わせて頭部を小さく削る修正をした。小顔はやはり美形の要素らしい。さて、その結果……やはり足元にも及ばない似て非なるものに過ぎないが、ほんの少しは近づいたと思いたい。2022/5/1




「オオヤマネコ」野生の面構え
 仕上げは研磨せず、鑿や彫刻刀の削りあとを残し、彩色面を少なくして、サクラ材の木肌の美しさを活かした。
 オオヤマネコの特徴は、丸顔に見えるほど毛量の多い頬ヒゲ、それと(進化の過程でなぜこんなものが生えたのか?)耳の先の一つまみの飾り毛。他はイエネコと大差ないと思ってみたが、やはり野生は何かが違う。オオカミは群れて狩りをするがヤマネコは単独で捕食する、いわば己以外はすべて敵または獲物とみなす習性だ。その孤棲する野生を表わしたい、と気合を入れて色付けしたら、歌舞伎の隈取りに似てきた。2022/4/8
    



ミニ猫3個、舐め愛彫り?
 がらくた箱を整理していたら、端材で小物を彫りたくなった。「うずくまり猫」と「おすわり猫」はオンコ材、「のびのび猫」はシナ材だ。小さいから短時間で形が見えてくるが、と同時になんていうか、小さいもの〜可愛いものには庇護本能がはたらくのか? これは人間ばかりではない、他の動物でも種が違う子を舐め愛することは多々ある。で、私もこのミニ猫を舐めるように彫った次第。仕上げに木彫オイルを薄めて塗ったので、木目がきれいに浮き上がった。2021/12/28
    



「夏の寝姿」 ネイル用のミニ筆で彩色
 あと一息と思っていたが、苦手の彩色が意図したようにいかず、納得できるまで4回塗り直した。最終的には、いままでやったことのなかったネイル用の超極細ミニ筆(カーヴィング教室で学んでいた頃、仲間にいただいた)で、虎斑模様を1本1本丹念に描くことになった。柔らかい線で表現でき、これも面白いのでは。
 いろいろ試行錯誤しているうちに、はや防寒着が必要な10月末。タイトルを “床暖の上の寝姿” とでもすべき季節になってしまった。2021/10/25
    



「夏の寝姿」 あとは彩色だけ
 夏の猫は寝相がわるい。暑さを避けて、涼しい床の上なんかで四肢をなげ出し、体熱を放散しようとする。だらけきっているように見えるが、理にかなっているので、人間もつい共感し、癒されたりする。
 次女宅の飼い猫 “ゆず” の状態を何枚も撮ってもらい、それを参考に彫りあげた。研磨、ラッカー〜ジェッソ(下地剤)を塗り、最終的な形になった。あとは色を塗るだけ。彩色はいつも苦労するのだが、今回は同じモデルの2作目だし、寝ているから目は線だけでいい。どうやら、もう一息のところまできた。2021/10/10
    



「逆三角ストレッチ」 バーニング仕上げ
 猫の背筋伸ばしは、よく見かけるのが前足を突き出しお尻を持ち上げるポーズだが、今回はちょっと違う▽の形──四肢を揃え背中を天に突き上げた変則スタイルを彫ってみた。名付けて“逆三角ストレッチ”。この形、仕上げが近づくにつれ倒れやすくなってきた。足裏の接地面が小さいので、身体の前後の比重が均等でないとひっくり返るのだ。台座を作りダボで繋ぐ手もあるが、どうにかバランスをとって立たせ、地震がきたら真っ先に倒れる置物というのも面白いのでないか。彩色せず、久しぶりにバーニングでタビー模様を描く。2021/2/18
    



初対面は匂いをかいだだけ
 コロナ自粛で年始挨拶も玄関先で済ます正月になった。が、この機会に飼い主の次女の家族に木彫猫を手渡すことができた。間もなく送られてきた初対面の動画……“ゆず”は“木彫ゆず”を見つけると、あ、あれはなんだ、という感じで足早に近づいたが、匂いをかいでただの木片と認識したとたん興味を失ったようだ。関心を示したのはほんの2〜3秒のことだった。
 猫は動くものにはジッとしていられない性質、次はアクションのあるポーズを彫ってみようかと思う。また、いままでに彫った獲物をねらう猫や威嚇する猫、よちよち歩きの子猫なんかを持ち込んで、物陰から顔を出したり引っ込めたりしてカマってみたい。コロナが収束してからだけれど……。2021/1/8
    



「お座り“ゆず”」 キトンブルーとタビー斑
 次女宅の子猫“ゆず”像。まずは普通に座っているポーズを彫って、顔形や毛並みの特徴を把握してみることに。彫りは順調に進み、姿形のしなやかさや毛並みのモコモコ感を表すため、彫刻刀の削り跡を、ヤスリとサンドペーパーで消して滑らかにした。
 彩色はいつも苦心する。キトンブルーの目は濁りをいかにきれいに見せるか、青とネズの配合を何度も試して塗った。斑のなかのタビー模様は左右対称でなく複雑に入りくんでいるので、主要な縞だけに単純化して描いた。さて似ているかどうか? いっしょに暮らしている家族には微妙な差異も見逃さないと思うので、どんな感想になるか気になるところ……。2020/11/22
                             

 アップロードするや、すぐさま「めっちゃ可愛い」「本物みたい」「モコモコ感が出てる」などと娘たちから感想が寄せられた。実作をすぐにでも手渡したいが、コロナ蔓延の渦中ゆえ娘の家族とも会うのを避けている。私としては、この“ゆずもどき”と“ゆず“本人(じゃないね、本猫というべきか?)と対面させて、その反応も見てみたいのだが、いまや感染急増で札幌は警戒ステージ4相当とか、楽しみは遠のくばかりだ。2020/11/25
    



「忍び足」 研磨仕上げに
 これもいただいたオンコ材、長さは28センチで手ごろだが、高さ・幅はともに8.5センチと極端に細長い。で、獲物にそーっと忍び寄る猫の低い姿勢を彫ることに。緊密な材質に負けないよう彫刻刀を念入りに研いで作業に入り、硬すぎる個所は彫刻刀の柄尻を肩で押す彫り方で進めた。
 木目をきれいに出したくてヤスリとサンドペーパーで研磨すると、ヤニの固まった痕だけでなく、何やら知れない汚損があちこちに現れた。うーん、この木も紆余曲折を経て今日に到ったのだろう、それをありのまま見せよう、と考えを改めた。また目を金色にし、その光が際立つよう全身に木彫オイルを塗ったら、汚れまで目立って顔が傷だらけの野良みたいになった。これも一興か。2020/10/17
    



オンコ材でミニ猫
 木彫サークルの先輩からいただいたオンコの端材が残っていたので、ミニ猫を彫った。暑い日が続いて気持ちが集中できず、実際には彫ったり放っておいたりで、気が向いたときに少しずつやってきた。硬いし小さいしでしょっちゅう放り出していたのだが、ときどき思い出したように手にしていたら、いつか仕上がった。木目を際立たせるためよく研磨し、木彫オイルを塗る。
 彩色は目だけ、アクリル絵の具で金目にした。理由はちょっと短絡的だがオンコの和名 “一位”、一位=金メダル、という洒落。2作とも丈10センチほど、小さくても最高級材である。2020/8/22




「遊び相手」 白猫とハイハイ赤ちゃん
 動くものにジャレようとして、お尻を持ち上げシッポも天に突き出し、前足に力を溜めた猫。まずこの形が面白いと思って彫った。対する相手にはゼンマイ仕掛けのレトロ玩具“ハイハイ赤ちゃん”を模してみた。材料はバスウッド(アメリカ産のシナノキ)。
 彩色は、猫の体毛を白一色、目鼻は青とピンクでシンプルな仕上げに。“ハイハイ赤ちゃん”は昭和の頃はセルロイドだったと思うが、いま市場に出回っているのはプラスチックか? 質感を出すため全身にニスを塗った。小さすぎる目や睫毛は柔らかさとコシのあるコリンスキー筆(酷寒のロシアに生息するアカテンの毛筆)で描いた。2020/8/5




「おっさん座り」 メタボな茶トラに
 チェンソーで輪切りにしたシナの丸太が、やっと猫の形に収まった。この座り方はスコティッシュフォールドという品種に多く見られ、“スコ座り”ともいう、メタボな猫特有の座り方らしい。彫り始めには、太りすぎてふてくされているような奴にしたいと思っていたが、割れ目だらけのバサバサの材質をあれこれ工夫しながら、糸引き目や二重顎、ぽってりした足なんかを彫っていると、しだいに可愛くなってしまった。彩色も淡いほうがふっくら感が出ると思い、茶トラに仕上げた。タビー柄はほとんどアドリブで一気に描く。左右対称の原則も遺伝子にゆらぎが生じるようなので、このいい加減なところがちょうどいいのでは。2018/12/12
     



かつての飼い猫、しっぽ巻き座りに
 娘たちが小学生の頃、白いオス猫を飼っていた(家族との交流は、拙作「猫も歩けば」に=『われらリフター』所収)。シャム系の血が入っているらしく体型はしなやか、純白の毛並みに青い目とピンクの鼻先が愛らしかった。キャットフードなんてない時代、煮干しが一番の好物だった。名前はチック、奴の面影をしのんで8年前に彫った。表情もうまくいって自分でも満足していたのだが、その後、目が肥えてきたのか、己の技量の足りなさが目につくようになった。そこで今回、胴体をスリムにし、耳、胸、足周りをリアルに表現、とくに尾の先を延ばして、いわゆる“しっぽ巻き座り”に修正した。尾の先をハネあげて、少し元気を付け加えたつもり。2018/10/10
     



「顔を洗う猫」 毛並みのテクスチュア
 毛並みの表現は、これまで、@彫刻刀で削って付ける、Aバーニングペンで焼いて付ける、の2つの方法しかやったことがなかったので、今回、B電動ルーターでくっきり凹凸のある、いわゆるテクスチュアを入れる手法にトライした。
 参考にしたのは、ペットグッズなんかを売っている店で見かけた猫のフィギュア。本物の毛並みと見紛うほどのふさふさ感……プラスチック製らしく、叩くと空洞のような音がした。過剰なリアルはかえってわざとらしさになりかねないので、そのちょい前くらいのレベルで木に表現すべく試みた。盃型の先端ビットなら深みを付けられそうに思えたが、シャープになりすぎてダメ、けっきょく円筒型のビットで仕上げた。ついでに耳毛〜耳穴、舌先もよりリアルに修正した。2018/8/3

     



「首を掻く猫」 足周りと首を修正
 以前の作品で、いま見ると気にいらないものがいくつかある。このさい修正できるものは修正し、修正のしようがないものは彫り直すことにした。

 このポーズは体が斜めにしなり、かつねじれているので、当時、形がよくつかめなかった。入手した写真では裏側が見えないし、猫カフェに行ってもなかなか望みどおりになってくれない。とくに体を支えている右足の位置がどこか不自然で、気になっていた。修正は、木片を貼って右膝を盛り上げ、足先は内側に向けて半分あぐらをかいた状態に。ピンクの肉球が2個所みえるので、子猫の愛らしさが増したのでは。ついでに頭を一旦切り離し、もっと傾斜をつけて上向き+ねじりを加えて接着、“かゆい”切実さをほんの少し強調してみた。2018/6/1
     



「追いかける猫」 ゴーストタビー風に
 獲物を狙って追いかける猫の動きを彫りあげ、彩色は運動好きで好奇心旺盛なロシアンブルーにした。しかし、グレーを塗ってみると、色自体が地味でくすんだ感じだし、単色ではなんとなく芸がない気がしてきた。思案の末、ゴーストタビーという極薄の虎縞を入れて深みを出すことにした(子猫のとき尾の先に出てくる現象をそういうらしいが、それをアレンジして全身に)。グレーは白い絵の具にほんの少し黒を混ぜるだけだから簡単だと思ったのだけれど、水分にもよるのか濃淡の度合いがかなり微妙で、塗るたびに色(明暗)が変わる。まだ納得できないが、繰り返し塗るのが嫌になって、この辺でもういいや、と放り出した。2018/3/10
     



「アビシニアンII」 再々々削り直し、塗り直し
 何度塗り直しをしただろう。塗りだけでなく、全体を一皮剥くようにヤスリをかけたり、電動ルーターで削ったりバーニングで毛並みを焼いたりしたので、猫は次第に痩せてきた。彩色では調合した色を木片に試し塗りしても、やはり本体に塗らないと感じがつかめない。気にいらないとジェッソを塗ってやり直し。何度も繰り返しているうちに、今度は少しずつだけれど、塗った色の層の分だけ太ってきた。
 今回のシナ材、木質が柔らかすぎてグザグザになり、思い通りに彫れないことがすべての作業に響いたが、バーニングペンで全身に毛並みを付け、その小さな溝を絵の具の溜まりにすることで色むらを防ぐことができたように思う。まだ完全とはいえないが、やっと思い描く毛並みの表現に近づいた気がする。いまの私にはこれが限界か。2017/9/23
     



「ターゲット・ロック・オン」 目で変わる表情
 獲物を狙う猫の目。以前にバーニングしたものだが、入手した写真に忠実に描いたのに何となく不満が残っていた。それが何なのかわからなかったのを今ごろ気づき、目だけ描き直す。たったこれだけのことで、獲物のかすかな動きも見逃さない、目のリアリティが表現できたように思う。2017/3/10

狙う猫-修正前  ⇒  狙う猫-修正後



ZZZ…」 バルサ材をテスト
 どんなものか初めて買ったバルサ材を試作してみた。まるで発泡スチロールのような密度のなさで、彫刻刀は力を入れなくても切れる。電動ルーターで削るとあっけないほどスイスイ進む。子供か初心者の練習用にはいいかもしれないが、木彫とは胸を張っていえない材料だ。しかし、やり始めたので完成させた。色を塗れば材質までわからない。展覧会でよく「作品に手を触れないで」とあるが、これは「手に持ってみてください」と表示するのも一興かな。意外な軽さに、あれっ、と驚くに違いない。
 「ZZZ…」をなんと読むか。寝息を表すオノマトペ(擬音語)なので、読む人によって変わるようだ。普通グーグーだろうが、子猫が熟睡している状態なので、クークーがスヤスヤと判読していただければ。2017/1/20

寝る子猫



「アビシニアン」 キリリとスラリ
 書店で見た『世界の美しい猫101』の表紙のアビシニアンに魅せられた。和鋏を開いたようなキリリとした顔立ち、バレリーナのような筋肉質のスラリとした体形、真っすぐ見つめる視線は涼やかで、凜とした気品があった。本の猫と目が合った瞬間、これを彫ると決めた。
 短毛種なので骨格や筋肉の配置をおろそかにできない。猫カフェ“ 福猫茶房 ”に行き、同種はいないがベンガル系“遊”くんの細身をよく観察し、引き締まった体形に近づけた。彩色はいつも苦労、イメージどおりにいかなくて何度も塗り直し、ずいぶん日数を費やした。2016/4/22

アビシニアン-右 アビシニアン-正面 アビシニアン-左



「子猫2匹」 歩き始めの形と表情
 猫は生後3週くらいで歩き始めるらしい。行動範囲は狭くても子猫にとっては大冒険だろう。おぼつかない足どりで踏ん張りがきかず腰が引けている形、見るもの触るもの新発見、好奇心から首を伸ばし目を見張る表情……そんな“おっかなびっくり”の状態を表わしてみた。
 やっとこ歩きの子猫はタビー模様をアクリルで、何かに驚いてフリーズしちゃった子猫は、ベンガル柄をバーニングとアクリルで。目の色は、生まれたばかりの猫に特有のキトンブルー kitten blue、濁った青色なので、きれいに見せるのが難しかった。2015/11/12

子猫-正面 子猫-後面



「二足立ち猫」 何を見てるの?
 四つ足の猫が二足立ちすることがある。何かの気配を感じ、それを“見極め”ようとしているのかと思ったら、猫の目はひどい近視で0.1〜0.3しか見えないとか。ジッと見つめているかのようにみえるのは、物音を“聞き分け”ようとしているところらしい。聴覚のほうは哺乳類のなかで最も発達していて、人間には聞こえない高周波〜低周波の音域や微かな昆虫の足音まで聞こえるという。
 彩色で三毛猫に。前面はほとんど白一色、背面は豪華な和服のイメージ。鼻先と耳の内側だけ削って木肌を出した。2014/12/18

二足立ち-前 二足立ち-背



「棒になった夢」 シナの原木から
 定年退職のあと木工場に勤めた後輩からシナの原木を数本もらったので、さっそく彫ってみた。一番長い材を選び、うつ伏せでのべーっと前後に足を伸ばして寝ている猫。
 生木だから、削っていくと芯の赤身と表層の白太(しらた)の色の差や、腐れ節〜汚れ(青太というらしい)が出てきたり、ヒビ割れが生じたりと思わぬアクシデントもあったが、それも一興と楽しんだ。彩色しても汚れを隠しきれず、ややラフな仕上げながら、これはこれで納得。「棒猫」との題も途中から「棒になった夢」に改めた。2014/9/12

棒猫-左向き 棒猫-向こう向き



「Cats Walk」 3匹が行く
 ボス猫ができたので、先につくった歩く猫2匹を従えて組物にしてみた。ボスの体は他の猫より大きめにしてあるし、3匹とも足の運び、尾の形はそれぞれ変化を持たせている。また瞳の大きさもマチマチだったので、これは同じ条件下にするとあり得ないこと。猫の目のように変わるというくらいだから、2匹を昼の細い瞳に描き直す。ボスを先頭に縄張りをパトロール……実際にうちの周りを歩かせてみた。 2014/7/15

3匹-正面 3匹-後面



「ボス猫が行く」 サバトラ柄で縦縞の背広風
 キャットウォーク3作目は“ボス猫”。他の猫たちを威圧する体の太さと、同時に果敢な気性も表現しなければ、と肥り気味にし、面構えも工夫した。 とくに前作2匹とは足運びを変えてあるが、これは岩合さんのTV番組“世界ネコ歩き”を録画し、何度も静止して正確を期した。 サバトラの毛並みは、ギャング映画でみるボスは縦縞の背広が定番のようなので、そのイメージのつもり。2014/7/12

ボス猫-正面 ボス猫-側面 ボス猫-背面



「寄り目」 てんとう虫と猫
 何年前になるか、テレビのCMで放映された1コマが人気を呼んだ。白猫とてんとう虫の組み合わせが微笑ましく、のどかで平和な映像に癒される人も多かったのだろう。
 木彫では、形に難しいことは何もなく、ただ猫が普通に前を向いていればいい。ポイントは目の描き入れだけ。CMは瞳孔が上目蓋につく三白眼で、動画の経過のなかで寄り目になっていく感じだが、木彫で三白眼にすると時間経過がないから、睨み目にしかならない。なので、瞳孔を下目蓋の中央に寄せ、てんとう虫を凝視させた。漫画っぽくなりすぎたかな。2014/4/22

寄り目猫



「キャット・ウォークU」 細身の軽やかさを
 同じ題の前作(オス)は、なんかヨイショヨイショという感じの歩き方になったので、2作目はスイスイと軽やかな感じに。
 短毛長尾で細身の猫はポーズがとりやすいように思う。ファッション・モデルの超長身〜超痩せタイプに類似するといえるかもしれない。別に猫が左右に腰を振って歩くわけではないけれど……。ということで、メス猫のしとやかな歩きをイメージして初夏に作成、年末に修整してシャム猫に変身させた。2013/12/20




「香箱座り」 エラソーな顔が面白くて
 「香箱座り」とは、昔の人は品のいい言葉を当てはめたように思えるが、貴族階級によるネーミングだろう。当時、鼠害に悩まされていた層には、猫は手が出せない“舶来品”だったにちがいない。英語圏ではパンの塊に例えて「キャットローフ catloaf」と呼ぶそうだ。こっちのほうが庶民的だな。ともあれ、この状態、猫にとってはほっくりしているときのようで、自己内省とでもいうか、しばしば哲学的な、エラソーな表情をすることがある。どうせ大したことは考えていないはずだが……。
 毛並みは、アメリカン・ショートヘアの斑模様をバーニングで仕上げた。シュールで奇々怪々な渦巻きを描きながら、猫の不思議をまた体験した。2013/7/18




「空中反転」 しなやかな落下の対応
 猫の両足を上向きにつかんで持ち上げ、離すと、素早くクルリと反転して着地に対応する。その機敏なひねりの一瞬をとらえてみた。材料はシナ。猫のしなやかさをシナで彫った……なんて、つまらなくてシャレにもならないか。彩色はアビシニアン風に。
 ところで、高層マンションの19階から落ちた猫が無事地面に着地したという、信じられないようなニュースをネットで読んだ。エッ、と思った方は、こちらへ。2013/5/15




「籠の中」 木肌を活かし薄化粧
 前作のあと、容器の中に猫を入れたら隠れた部分を彫らなくて済む、つまり手抜きできると考えた。箱、紙袋、花瓶といろいろ思案の末、籠の中が一番ほっくりしそう……しかし籠だと竹ひごの編み目を彫らなければならないから、かえって面倒になるが、そのイメージが消え去らず、彫ることに。
 材料は北海道では産しないクス。樟脳の原料にもなる木で、彫り始めると部屋中に芳香が満ちる。下絵では目をつぶっていたのだが、半眼にして居心地よく満足している表情に変えた。彩色は、木肌の濃淡を斑模様に活かし(透けて見えるように)ジェッソを薄く塗るにとどめた。2013/4/1




「コップ猫」 ブナの円柱材で
 “百均”でなんとなく買ってきたブナの円柱材(Φ60×12p)を、しばらく棚に置きっぱなしにしていたら、ある日、ふいに子猫がコップから顔を出す図案が浮かんだ。猫は箱だの袋だの、とにかく穴の中に入ると安心する習性がある。
 顔と前足を彫るだけだからいとも簡単、と思えたが、彫刻刀がスパッと切れないモゾモゾした材質だった。コップからはみ出す前足部分は、頭を削ったさいの端片を貼り付けた。で、これまでで制作費がいちばん安い、税込み105円也。2013/3/13





「へそ天」 究極のリラックス
 仰向けになって、完全にだらけきっているようにみえるが、外敵に襲われることのない安全な場所とわかっているからできる、安心しきった猫の寝姿。はしたない態度は見る者に不快感を催させるものだが、この場合、なぜか微笑を誘い、こっちの気分までリラックスさせてくれる。究極の脱力ポーズといえようか。
 シナ材をほとんど浅丸刀で彫った。シッポの形に迷い、削りすぎて失敗、半分ほど端材を貼り合わせて削り直す。着色は、全身にジェッソを塗ってテカリを抑え、鼻先と肉球をアクリル絵の具で。2013/1/18




「水を飲む猫」 猛獣めいたポーズに惹かれ
 水を飲むという行為は動物にとって欠かせないもの、どんな動物であれ絵になるような気がする。なにかホッとするものを感じさせるからだろうか。この猫は首を低い水面に伸ばすので肩が盛り上がり、どこか猛獣めいたポーズ。そのイメージで彫ったせいか、どうも与えられたキャットフードではなく、自ら獲物を狩り肉食してできた筋肉のような、野性が現れた形になった。
 彫りのエッジを際立たせるよう、塗りも水分少なめのアクリル絵の具を硬い筆でラフに擦りつけた。2012/12/3




「キャット・ウォーク」 “側対歩”って知ってますか
 テリトリーをパトロールするオス猫を彫ってみた。猫の歩き方は“側対歩”といって、前足を出すとき同じ側の後足も同時に出す(犬は“斜対歩”で左右別々になる)。たかが猫でも、制作する者は生態をよく観察していないと間違いをおかしかねない。
 運動会の行進で、児童が緊張のあまり同じ側の手と足を同時に出して笑いを誘うことがあるが、同じ動作なのに猫はしなやかで流麗だ(もっとも人間は2足歩行だから、手はただバランスをとっているだけなのかな)。
 題名に借用したマル・ウォルドロンの「Cat Walk」は、名盤「レフト・アローン」に収録。猫好き必聴の佳曲としてオススメ。2012/10/15




「風の匂い」 材料は紫檀だった?
 風上に鼻を向けてヒクヒク……猫が嗅覚に敏感になるのは、どうせメスの臭いか(こやつがオスなら)、エサの臭いだろう。でも、あまり現実的すぎると生ぐさい感じになるから、まげて爽やかなイメージの題にした。
 サークルの先輩にサクラだといっていただいた材料だったが、さらに年上の先輩が見て、これはサクラではない、ローズウッド=紫檀でないか、という。そういえば、先のフクロウを彫ったサクラ材よりもっと硬くて、ずっしり重たい。ネットで調べてみると、紫檀の特徴が一々うなずけるし、サンプル写真の暗褐色に黒紫の縞模様もそっくり。もしそうなら、高級家具、唐木細工、象嵌、ナイフの柄などに使われる銘木である。叩き鑿をまたもや刃こぼれさせてしまったが、いい経験だったと思うことにしよう。2012/10/9




「午睡」 記憶をたどって彩色
 4年前に彫った眠り猫、今ごろ色を塗りたくなった。で、顔彩で三毛猫に。筆遣いの拙さから茶と黒に色むらが生じたが、却ってそれが味わいになり、胡粉の白も清潔感になったように思うのは、独りよがりか。
 中学生の頃、サンコと呼んでいた飼い猫を描いたことがある。絵は紛失し胴体の色模様は定かでないものの、頭と尾は記憶どおり。とても優しい性格の奴で、私が学校から帰ると肩にかけのぼり、喉をゴロゴロ鳴らしながら耳を甘噛みした。あれは家族への愛情を表す行為だったのだろうな。でも……当時の私は帰宅すると「腹減った」とわめいて何かかにか食べたから、その分け前にあずかろうとしただけのことだったのかな。2012/6/1




「母子交歓」 寝ていてもシッポの動く
 江戸川柳に「寝ていても団扇うちわの動く親心」というのがあるが、これは「寝ていてもシッポの動く親心」とでもいうべきイメージ。子猫はやっと外界がわかりかけてきた、まだ動作が緩慢な状態を想定してみた。反面、母猫のシッポをくねらせて動きを出した。毛並みは電熱ペンで焦がす。バーニングは久しぶり、2匹の全身を描くと肩が凝ったが、母子の表情に気持ちはほっくり。第45回記念道美展会友賞。2012/5/12




「怪しい奴」 鏡に映る自身を威嚇
 鏡に映った自分の姿を威嚇する子猫、そのしぐさが面白くて彫ることに。途中、背から尾にかけて逆立つ毛並みをどう表現するか迷った(以前、リスを彫って、尾の放射状に広がる毛並みをどうにも立体化できなかったので)。ウッドバーニングで描こうかと思ったが、興奮の様相は刀の切れ味で表すしかないと思い直し、勢いよく彫り上げた。仕上げはアクリル絵の具で全身を白塗り、少し乾いてから濡れた布でこすってエッジの木肌を露した。鏡枠は裏面に眠る猫を置いて支えにしたところ、上のスペースが空いているので風鈴とスダレを陰刻。隠し味のつもりが、興が乗りすぎたかもしれない。子猫はジェルトン材、鏡枠はクルミ材。2011/8/12




「日向ぼっこ」 ひのきの木目で茶トラに
 高級材の桧で彫った。桧は木目が美しいが、彫刻刀をよく研いで切れ味よくしておかなければきれいに出ないし、逆目はもちろん横目に削ってもケバ立つ。サンドペーパーなんかかけたら粉を吹いた状態になって木肌が光らない。厄介な材質に手こずりながら、けっきょく足周りを白く着色、頭・背・尾は木目を活かして“茶トラ”風に仕上げた。猫がうずくまる定番のポーズ、平穏なひとときを表現できたろうか。2011/6/1




「逃げ足」 疾走の体勢、支え2個所で
 走る猫のフォーム。スピード感を出すため尾を横になびくようにしたかったが、そうすると前足1本で全体重を支えなくてはならない。木彫だからいつポキッと折れるかしれない。やむなく尾も地面に着けて2個所で支えることに。猫の場合、全力疾走は追いかけるより逃げるほうが多いのではなかろうか。危ないとみたらさっさとエスケープする――ちょっと滑稽でカッコワルイけど、生き残るには最も無難な安全策かな。第44回道美展奨励賞。2011/5/15




モデル猫と再会、仲間と認識?
 完成した黒猫を持って、“福猫茶房”を訪ねた。実は粗彫り段階で訪ねたとき、この猫カフェのスタッフの中から、黒猫の“くう”君をモデルに選んだ経緯があり、今回、再会というか、照合してみようと思ったのだ。
 木彫猫を房内に持ち込むと、猫スタッフ一同ぞろぞろ集まってきて、臭いをかいだり触ったり……。私がけしかけるように前後に動かすと、とび出してきて先制パンチを食らわす強気の猫もいたが、たいていは怯えたように後ずさりする。当の“空”君はとび跳ねて逃げていってしまった。猫たちの目にどう映っているかわからないが、その反応ぶりからみて、猫の仲間(あるいは敵)と認識されたようなので、私としてはまあ満足した次第。2011/1/21

福猫茶房 黒猫とモデル
猫カフェ“福猫茶房”/分身の臭いをかぐ空君



う−ロック オン」 吾輩は獣である
 世の中、なんでもかんでも可愛らしさばかりが強調され、猫も同様のようだ。しかし本性は肉食系、その野性を表現しなくては。獲物をねらう表情を観察すると、頭を低く下げ、目をみはるように開けてターゲットの動きを細大もらさずキャッチしようとしている。で、そのように下絵を描いたら、まるで驚いたような顔になって、どうも野性とはほど遠い。けっきょく三白眼にして睨みをきかせるしかなくなった。また眼光の鋭さは、黄色い目を黒一色の中におくと際立つと考え、全身を真っ黒けにした。全長49p。2011/1/1
 
この作品は、猫カフェ“福猫茶房”サイトに紹介されました。




「きれい好き」 毛繕いで忘我の表情
 この構図はかなり難しかった。前足が舐めている後足の後側にあるなら形がとれるのだが、それでは秘所が丸見えになる。今回は上品にいこうと思って前足で隠す形をとった。材料はチュペロ(北米産)。白い木肌が美しいのでそのまま生かし、日本画用“顔彩”の茶〜黒色を塗って三毛猫にした。色の濃淡や滲みが温かみを醸しだすよう念じて……。それにしても猫って、毛繕いする時、なぜあんなに夢中になってしまうのだろう。2010/6/8





「ストレッチ」 春うらら、メタボ猫も動き出す
 猫独特の伸び伸びポーズ、メタボな体型にしてユーモラスな雰囲気を出してみた。木材の大きさに限りがあるので、長いしっぽをどんなふうにおさめるか悩まされ、結局こんな形に。題も「背筋伸ばし」「柔にゃん体操」なんてのも考えてみたが、前者はまともすぎ、後者はふざけすぎな気がして、これに落ち着く。オスのシンボルも表現。さあて、私も思いっきり大きな背伸びをして、どこかへ出かけてみるかな。第43回道美展で新人賞をいただいた記念すべき作品。2010/4/8
 この作品は、北岡ヤスリ製作所サイトに紹介されました。切れ味抜群の“木彫ヤスリ”を販売しています。





「子猫」 毛並みをウッドバーニング
 小首をかしげてお座りしている子猫を彫った。技法は、西誠人『キャット・カーヴィンク 猫の木彫入門』を参考に、彫り上げたあとヤスリ〜サンドペーパーをかけて滑らかにし、タビー系の縞模様をバーニングペンで描く。全身の毛並みを1本1本焼き付けるのは気が遠くなるような面倒な作業だが、木の焦げる香ばしい匂いを嗅ぎながら楽しんで描いた。2匹彫ったら、なんとなく兄妹のようになった。インドネシア産のジェルトン材。2009/5/14





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